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神戸地方裁判所 昭和51年(行ウ)39号 判決 1980年10月31日

神戸市生田区江戸町一〇四番地

原告

関西産業株式会社

右代表者清算人

白木恒雄

右訴訟代理人弁護士

前田貢

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

奥野誠亮

右指定代理人

高須要子

森江将介

門田要輔

山田俊郎

木下昭夫

吉田真明

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

伊丹税務署長が原告に対し、昭和五一年二月二四日付でした次の各処分に基く租税債務は存在しないことを確認する。

1  原告の昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分及び無申告加算税並びに重加算税の各賦課決定処分に基く金九、三七三万六、八〇〇円の租税債務

2  原告の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分及び重加算税の賦課決定処分に基く金八〇六万九、〇〇〇円の租税債務

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

第二当事者の主張

(請求原因)

一  原告は、昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下、昭和四七年度という。)法人税について昭和四九年二月二六日に、昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下、昭和四九年度という。)法人税について昭和五〇年二月二七日に、いずれも所得金額〇、法人税額〇とする確定申告をしていたところ、伊丹税務署長は、昭和五一年二月二四日原告に対し、次のとおりの法人税更正処分及び無申告加算税、重加算税の各賦課決定処分(以下、本件各処分という。)をなした。

<省略>

二  被告が本件訴訟において明らかにしたところによれば、伊丹税務署長のなした本件処分における所得金額の内訳は、次のとおりである。

1 昭和四七年度分

<省略>

2 昭和四九年度分

<省略>

伊丹税務署長は、右両年度の加算金額中、昭和四七年度の加算金額である地上権設定の対価は、昭和四七年四月一日別紙物件目録一記載の土地(以下、本件土地という。)に訴外東光産業株式会社(以下、東光産業という。)を権利者とする地上権を設定した際、同社から受領した保証金二億一、〇〇〇万円のうち、地上権設定の対価と認められるものであるとし、両年度の加算金額である地代収入は、右地上権の対価として東光産業から受領した各年度分の地代であり、昭和四九年度の加算金額である受取保険金は、本件土地上に存在した別紙物件目録二記載の建物(以下、本件建物という。)が昭和四三年一二月二二日焼失したため、日本火災海上保険株式会社(以下、日本火災という。)から昭和四九年五月三〇日受領した保険金であるとし昭和四七年度の加算金額である利息収入は、同年度の地上権設定の対価、地代収入、家賃収入について、原告が右益金を有しながら、このうち原告の使用分を控除したものを社内に留保していないところから、代表取締役であった陳学忠に対する貸付金と認定し、昭和四九年度の加算金額である利息収入は、同年度の受取保険金、本件土地および地上の建物(本件建物を除く)の根抵当権者である富士銀行および太陽神戸銀行と原告との間における訴訟上の和解に伴って受取った金額について、このうち原告の使用分を控除したものを前同様に陳学忠に対する貸付金と認定し、それぞれ、これを前提として算出した利息収入であるとした。

三  しかし、前記加算金額のうち、昭和四七年度分の家賃収入については伊丹税務署長の把握したとおりであるが、その余は、原告の益金でない。

すなわち、本件土地及びその地上に存在した本件建物を含む建物は、陳学忠が昭和三八年に油井株式会社から売買により取得したが、当時右物件に不法占拠者がいるなど解決に困難な問題が付着していたため、陳学忠は、これらの問題解決を含めて物件の管理を原告に依頼し、問題解決のためには登記簿上原告所有名義とするのが好都合と考え、原告名義で所有権移転登記を受けた。その後昭和四六年に至って、本件土地が競売に付されたが、当時右問題の解決に至っていなかったため、陳学忠は右と同様の理由から原告名義でこれを競落した。右のとおりであるから本件土地および地上の本件建物を含む建物の真の所有者は陳学忠であり、従って、東光産業に対して本件土地に地上権を設定し、同社から保証金及び地代を受領したのも、本件建物を火災保険に付し、日本火災から保険金を受領したのも、陳学忠であって原告ではない。また、本件土地および地上建物(本件建物を除く)の根抵当権者である富士銀行および太陽神戸銀行から訴訟上の和解に伴って金員を受取ったのも陳学忠であって原告ではない。ただ、原告名義で登記をしたため、その後の地上権設定契約、火災保険契約等の対外的行為はすべて原告名義でなされたに過ぎない。

本件各係争事業年分の益金とされた費目のうち昭和四七年度の地上権設定の対価、地代収入、昭和四九年度の地代収入、受取保険金は、いずれも陳学忠の収入金であって原告の益金でないことは、右に見てきたとおりであるから、これを原告の所得金額として加算したのは誤りであり、また、昭和四七年度の利息収入は、同年度の地上権設定の対価、地代収入が原告の益金であることを前提にしてなされたものであり、昭和四九年度の利息収入は、同年度の受取保険金、富士銀行および太陽神戸銀行から訴訟上の和解に伴って受取った金員が原告の益金であることを前提にしてなされたものであるから、これを原告の所得金額として加算したのも誤りである。

四  ところで、本件土地および地上の本件建物を含む建物が陳学忠の所有であることについては、伊丹税務署職員の税務調査員に際して十分説明がなされてきたところであり、原告と陳学忠との間の不動産管理代理事務契約書の存在、売買代金、競落代金等が陳学忠により調達されていること等により明らかであったのに、敢えてこれらが原告の所有であることを前提にしてなされた本件各処分には、重大且つ明白な瑕疵があって、本件各処分は当然無効である。

五  よって、原告は、伊丹税務署長が原告の昭和四七年度分および昭和四九年度分の法人税についてなした本件各処分に基づく租税債務の存在しないことの確認を求めるため、本訴に及んだ。

(認否)

請求原因一、二の各事実は認め、同三、四の事実は否認する。

第三証拠

(原告)

一  甲第一ないし第一三号証、第一四、一五号証の各一ないし三、第一六ないし第二二号証、第二三、二四号証の各一、二、第二五、二六号証

二  乙第二〇号証、第二二号証の各被告作成部分の成立を認め、その余の各部分の成立は不知、第一〇号証の成立は不知、その余の乙各号証の成立は認める。

(被告)

一 乙第一号証の一、二、第二ないし第一八号証、第一九号証の一ないし三、第二〇ないし第二三号証

二 甲第一六号証の官署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知、第七号証、第一二、一三号証、第一四、第一五号証の各一ないし三、第一七号証、第二〇号証、第二三号証の一、二、第二四号証の一、第二五、二六号証の各成立は不知、その余の甲各号証の成立は認める。

理由

一  請求原因一、二の各事実、すなわち、原告が、一月一日から一二月三一日を事業年度とする法人であること、原告が、昭和四七年度分の法人税の申告を法定期間内にせず、昭和四九年二月二六日に至って伊丹税務署長に対し、所得金額〇、法人税額〇とする確定申告をし、昭和四九年度分については、昭和五〇年二月二七日に同様の内容の確定申告をしたこと、伊丹税務署長は、昭和五一年二月二四日原告に対し、原告主張どおりの内容の本件各処分をしたこと、昭和四七年分の更正処分は、本件土地の地上権設定の対価及び地代収入、家賃収入、利息収入を、昭和四九年分の更正処分は、本件土地の地代収入、本件建物の受取保険金、利息収入をそれぞれ益金と認定した結果なされたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告は、本件土地および地上の本件建物を含む建物の所有者が原告ではなく、陳学忠であるのにかかわらず、これを看過誤認してなした本件各処分は重大かつ明白な瑕疵があって、当然無効であるというのであるが、納税義務者が、所得の認定に関する課税処分について、その課税要件の不存在を理由に、その無効を主張するためには、行政上の不服手段を経ていないことにより、もしくは出訴期間を徒過したことにより、出訴を許さないとすることが納税義務者にとって著しく酷であると認められるような重大な瑕疵が存在することが、処分の外形上客観的に明白であることを具体的事実に基づいて主張することを要するものと解すべきところ、本件各処分において、原告の主張するところは、瑕疵が重大であるといい得ても明白であるとはいえないばかりでなく、本件各処分には以下認定するように原告の主張するような瑕疵の存しないことが明らかである。すなわち、成立に争いのない甲第六号証、同第一一号証、同第一八、一九号証、同第二一号証、乙第七号証、同第九号証、同第一一ないし一八号証、同第一九号証の三、同第二一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第二〇号証(被告作成部分の成立については争いがない。)によると、

1  原告は、不動産の売買並びに管理、建築設計施工等を目的として、昭和三四年五月三〇日に設立された会社であり、当初代表取締役に白木恒雄が就任したが、昭和三六年一〇月二六日同人が辞任して同日陳学忠が代表取締役に就任し、爾来昭和五〇年一二月二〇日解散決議をなし白木恒雄が清算人に就任(その旨の登記は昭和五一年三月三日)するまでの間代表者に変更がなかったこと、

2  本件土地及び本件建物を含むその地上建物は、もと油井株式会社の所有であり、同社はこれに株式会社神戸銀行(合併後の株式会社太陽神戸銀行)及び株式会社富士銀行を権利者とする根抵当権を設定していたところ、原告の代表取締役であった陳学忠は、昭和三八年一一月二一日、油井株式会社の代理人白木恒雄との間で、右物件を抵当権が付されたままの状態で代金五〇〇万円で買い受ける旨の契約をし、そのころ右代金を完済し、昭和三八年一一月二六日原告名義で所有権移転登記を受けたこと、

3  油井株式会社の債権者であった酒伊商事株式会社は、昭和三八年一二月二一日油井株式会社との間の右売買契約を否認し、原告に対し債権者代位権に基き右移転登記抹消請求訴訟(当庁昭和三八年(ワ)第一一九二号)を提起したが、原告代表者陳学忠は、原告が正当に買い受けた旨主張して抗争し、また陳学忠は本件土地等に関する刑事事件である当庁昭和三九年(わ)第一三二一号事件の証人として昭和四一年三月一〇日の公判期日に出頭し、同様に原告が買い受けた旨証言していること、

4  本件土地および地上の建物〔ただし、本件建物(後述のとおり昭和四三年一二月二二日焼火)を除く〕につき、前記根抵当権に基く競売申立(当庁昭和四四年(ケ)第一五七号)があり、昭和四四年九月一日競売開始決定がなされたが、陳学忠は原告代表者として株式会社富士銀行及び株式会社太陽神戸銀行を被告として、物上保証人としての債務不存在確認並びに根抵当権設定登記抹消請求訴訟(当庁昭和四六年(ワ)第一〇八三、一〇八四号事件)を提起し、ここでも本件土地および地上の建物を原告が買い受けた旨主張したこと、右競売手続において陳学忠は、原告の代表者として昭和四六年一一月競買申出をなし、競落許可決定を経て昭和四七年四月四日代金を完納し、同月七日原告のための競落による所有権移転登記を経たこと、右の結果、前記酒伊商事株式会社の提起した所有権移転登記抹消請求事件は請求棄却の判決がなされて確定し、また原告の提起した前記債務不存在確認等請求事件は、当事者間に和解が成立し、既に債権者に交付されていた配当金中金一、七七四万六、五二四円が原告に返還されたこと、

5  陳学忠は、原告を代表して日本火災との間に本件建物を含む本件土地上の建物を目的とし、昭和四三年六月二六日から昭和四四年六月二六日を保険期間とする火災保険契約を締結していたところ、昭和四三年一二月二二日本件建物が焼失したこと、原告は、日本火災に対し火災保険金の支払を求める訴訟(当庁昭和四五年(ワ)第一〇三七号事件)を提起し、昭和四九年五月三〇日訴訟上の和解が成立し、原告は日本火災から実質一、七六〇万円の保険金を受領したこと、

6  陳学忠は、原告を代表して昭和四七年四月一日東光産業に対し、本件土地に地上権を設定し、同日から同年九月一二日までの間に同社から保証金二億一、〇〇〇万円が支払われたが、右金員の支払は東光産業の帳簿上原告に対する支払として記帳されているほか、右金員支払のため振出された小切手の大部分は原告により取り立てられており、陳学忠名義で取り立てられた振出日昭和四七年九月一一日額面一、四五〇万円の小切手も、同月一二日株式会社関西相互銀行の原告に対する同額の貸付金残額の弁済にあてられていること、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。右認定の事実経過によれば、昭和三八年一一月油井株式会社との間の本件土地および地上の本件建物を含む建物の売買契約における買主は、陳学忠個人ではなく、原告であったと推認するに十分である。

原告は、油井株式会社から本件土地および地上の本件建物を含む建物を買い受けたのは、陳学忠個人であると主張し、これに沿う証拠として甲第二〇号証(昭和五〇年三月三日付け、原告代表取締役陳学忠の伊丹税務署長宛て上申書)、同第一三号証(昭和三八年一〇月二五日付け、陳学忠と原告との間の不動産管理代理事務契約書)を提出するが、前者の記載内容は右認定の事実に照らし到底信用できず、後者は、原告の代表取締役が白木恒雄から陳学忠に更迭した昭和三六年一〇月二六日から二年を経過した昭和三八年一〇月二五日に作成されたものとされているにかかわらず、契約当事者の原告の表示が「関西産業株式会社会長白木恒雄」となっていることや、右契約に基く収益と管理費用の精算がなされた形跡がないこと、原告の受ける報酬が毎期定額を支払うのでなく不動産処分時にその価額の三パーセントを支払うとされている等契約条項自体極めて不自然であること等を考慮すると、陳学忠と原告との間に右契約が真正に成立したとは、にわかに断定しえない。

なお付言すれば、本件建物の火災保険金の支払について訴訟上の和解をして保険金を受領したのが原告であること、本件土地を昭和四七年四月競落したのが原告であることはいずれも前記認定のとおり(右各訴訟行為について、代理の観念を入れる余地はない。)であるから、少くとも昭和四七年四月以降の本件土地の所有者及び保険金の受領者は、原告である。

以上のとおりであってみれば、伊丹税務署長が原告の昭和四七年度分および昭和四九年度分の法人税について、原告の昭和四七年度の所得金額を認定するについて、原告の自認する家賃収入のほか、本件土地の地上権設定の対価及び本件土地の地代収入を原告の益金として把握し、原告の昭和四九年度の所得金額を認定するについて、本件土地の地代収入及び本件建物の受取保険金を原告の益金として把握し、これらの益金を原告の所得金額に加算するほか、昭和四七年度の利息収入として、同年度の地上権設定の対価、地代収入、家賃収入のうち原告の使用分を控除したものを原告の代表取締役である陳学忠が自己の所得として管理処分していることは弁論の全趣旨により原告の自認するところであるから、これを原告の陳学忠に対する貸付金と認定し、また昭和四九年度の利息収入として、同年度の本件建物の受取保険金、本件土地および地上建物(本件建物を除く)の根抵当権者である富士銀行および太陽神戸銀行から和解に伴って受取った金員のうち原告の使用分を控除したものを前同様陳学忠が自己の所得として管理処分していることも弁論の全趣旨により原告の自認するところであるから、これを原告の陳学忠に対する貸付金と認定し、それぞれ、これを前提として、利息収入を算定して原告の所得金額に加算してなした伊丹税務署長の本件各処分には原告主張のような瑕疵の存しないことが明らかである。

三  よって、伊丹税務署長が原告の昭和四七年度分および昭和四九年度分の法人税についてなした本件各処分が重大かつ明白な瑕疵があって当然無効であることを前提として、本件各処分に基づく租税債務の不存在の確認を求める原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、既に前提において理由を欠くものであるから、棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、行政事件訴訟法七条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 阪井昱朗 裁判官 森脇勝 裁判官 高野伸)

物件目録

一 神戸市生田区江戸町一〇四番一

宅地 五二四・八九平方メートル

同 所 同番二

宅地 四九五・九〇平方メートル

二 神戸市生田区江戸町一〇四番地上

家屋番号 同所七番

木造煉瓦造二階建事務所 一棟

延面積 八五八平方メートル

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